部屋に残した手紙は、父の手に渡るだろう。

 できる限り当たり障りのない文面にしたつもりだけど、そもそも父にとってはどうでもいいことかもしれない。

 異母弟だという彼のことはあまり知らないけれど、振る舞いを見る限り、不足なく代わりの役目を果たしてくれると思う。そして弟は。


 弟は。


 考えて、空を仰ぐ。

 心の底に、何か光を放つものが沈んでいるような気がして目を凝らしてみたけれど、何も見つからなかった。


 時々、こんな風になることがあった。

 弟のことを思い浮かべる時だけ、今はもう触れられない記憶が目の前にちらつく。


 過去の自分は、おそらく弟を大切に思っていて、弟の笑顔や、二人で過ごす時間に幸福を見出していたのだろう。

 おそらく、というのは実感がないからで、大切も幸福も自身から生じたはずなのに、他人の記憶を本で読むように遠い。