そして消えゆく君の声

「お待たせ。いい木だから、触ってみたくなって」


 親しげな笑みからは、ほんの数十秒前までの張りつめた雰囲気は消えている。


「何かお願いごとでもしたの?」

「どうだろう。願ったような気もするし、励まされた気もする。でも、そんなことはいいんだ、どっちでも」


 私にはわからない言葉を独り言のようにこぼして、また手を取る。さっきよりも強く。そして、


「秀二と何かあった?」


 穏やかな口調でたずねられて、私はあからさまに動揺した。手をこわばらせて奥歯を噛みしめると、幸記くんがからりと笑う。


「やっぱり。秀二もすぐわかる嘘つかなきゃいいのに」

「黒崎くん、何か言ってたの?」

「よく一人で考え事してるみたいだったからどうしたのか聞いたら、何でもないって。だけど、秀二がおかしくなる原因なんて桂さんかあの人に決まってるし」


 あの人、が誰を指すのかは、聞かなくてもわかる。


「ケンカ?」

「ううん。そうじゃないけど」