そして消えゆく君の声

 私たちは片手に互いの手、もう片方の手にあつあつの鯛焼きを持ちながらゆっくり歩いた。


 スーパーの前で買った鯛焼きは安かったのに尻尾まで餡がつまっていて、なんだか得した気分。

 初めて見る食べ物に不思議そうな顔をしていた幸記くんも、今は機嫌よく丸いおなかにかぶりついている。


 細い首に巻かれた私のストールは、本来の持ち主よりずっと似合っていた。


 細い通りを抜けると、秋色に褪せた川沿いの道が目に入る。

 幸記くんと初めて出会った場所。なだらかな土手いっぱいに、すすきがたなびいている。


 風にあおられて、波のように揺れる真っ白な穂。幸記くんはやわらかく目を細めて、水辺の風景をながめた。


「秋の音がする」

「秋の音?」

「うん。水とか、草の音。晴れてるからっていうのもあるけど、夏に来た時とは違うなって」


 言われてみれば、さわさわと草の流れる音は夏よりも優しい。

 毎日歩いているのに、全然意識しなかった。


「幸記くんは、そういうことに気付くのが上手だね」

「見る機会が少ない分、ちゃんと見ようとしているからね」


 切ない言葉を口にしながら、すこし誇らしげに笑った唇に、やわらかい髪がこぼれる。