そして消えゆく君の声

 私はふいに、幸記くんと交わした約束を思い出した。


 三人で出かけて、色々な風景を見ること。

 今日は一人欠席だけど、出かけるというには、あまりにもささやかだけど。


「了解。責任重大だね、私」


 右手で敬礼のポーズをしながら、笑う。

 心のもやもやを吹き飛ばしたくて、ちょっと、空元気になってしまったかもしれない。

 見慣れた風景、見慣れた景色は、幸記くんの目にはどう映るのだろう。


「ありがとう。無理に色々考えてくれなくていいからね。歩くだけでいいから」 

「うん」

「秋はいいね、風が涼しくて」

「うん」

「秀二が知ったら怒るだろうな、いつも桂さんに会ってるくせに」

「それはないと思うけど……」


 足元を、雲の影が横切っていく。

 自然に伸びてきた手のぬくもりを感じながら盗み見た横顔は、ぐっと大人っぽくなっていた。