そして消えゆく君の声

「普段は秀二と出かけるんだけど、今日は用事があったみたいで。でも、そっちのほうがいいかもね。こうやって桂さんを独り占めできるし」


 さらっと恥ずかしいことを言うと、幸記くんははらはらと舞う銀杏の下を歩き始めた。つられて横を歩くと、数歩で立ち止まって。


「独り占めついでに、これから付き合ってもらっていい?」


 たずねた目は、いたずらっ子みたいな好奇心に満ちていた。


「え?うん、いいけど。どこか行きたい場所あるの?」

「ないよ。ここらへんのこと全然知らないし、だから、桂さんに教えてほしいなって」


 向き直った視線の先には、秋の街並みが広がっている。

 道路脇には色づいた葉がつもって、少し前まで乾いたアサガオのつるが引っかかっていた花壇には、コスモスの花が咲いている。

 高い空が朱に染まるころには、トンボの姿も見えるだろう。