いくら体調が良いのだとしても幸記くんはこの辺の土地勘もないし、心配性の黒崎くんが一人で出かけさせるとは思えない。

 知らず眉を寄せる私に、幸記くんは首を振った。


「人と一緒。もう帰ったけどね」


 さっきとは打って変わった不満げな声。桜色の唇が引き結ばれて、キュッととがる。

 人って、とたずねるよりも早く。


「桂さんも知ってるよね。要って人」

「か、要さんと一緒だったの!?」


 事もなげに告げられた言葉に、上ずった声をあげてしまう。

 要さんと幸記くん。意外な組み合わせだ。

 ううん、同じ家で暮らしているんだから一緒に行動してもおかしくないのだけど、二人が並んでいる姿が想像できないというか、不機嫌そうな顔しか思い描けないというか。


「俺たち、すごく気が合うんだ」

「ええっ!!」


 い、意外すぎる。一体どんな会話をするんだろう。

 幸記くんの手を引く要さんとか、見た目は絵になるかもしれないけど、何か企んでいるようにしか――


「お互いがお互いを嫌ってるってこと」


 ……ああ、そういうこと。

 頭いっぱいにひしめいていた想像が、あっと言う間に消え失せる。

 めいっぱいうなずくほど納得してしまうのは、要さんに失礼だったかもしれないけど。