かけ足でエントランスを抜けると、どっさり茂った銀杏並木に細身の影がたたずんでいた。


「こんにちは」


 目深にかぶった帽子を持ち上げて、幸記くんは照れくさそうに微笑んだ。

 出会った時は私より低かった目線が、今は少し高い位置にある。

 成長期とはいえこんなにどんどん伸びて、いつか黒崎くんを追い越してしまうかもしれない。


「急にごめん。どうしても桂さんの顔が見たくなって」

「ううん。私も、幸記くんに会いたいって思ってたよ」


 陽に照る二つの目が、川底の鉱石みたいに輝く。


「本当?」

「もちろん。なんかね、秘密のプレゼントが届いた気分」

「頼んでないのに出前がきた、のほうが近いと思うけど」


 冗談めかした言葉は、語尾でふわっとやわらいだ。



「でもありがとう。会えて良かった」



 笑みを深めた頬はほんのり丸みをおびて、前より健康そうに見える。


 澄んだ秋の風にそよぐ、やわらかい髪。

 三ヶ月近い時間のへだたりは一瞬で消え失せて、私は心からの笑みを返した。


 会いたかった人。

 聞きたかった声。


 嬉しい、すごく嬉しいけど……疑問が一つ。


「もしかして、一人でここまで来たの?」