自分の言葉に、つい頬が熱くなる。

 雨の日の告白以来、私は前よりも自分の気持ちを正直に話すようになっていた。

 黒崎くんに、私のことなんて考える余裕がないのはわかっている。

 過去の話に踏み込めるはずがないことも知っている。それでも。



『お前の好きな黒崎秀二なんて、存在しない』



 黒崎くんに知ってほしかった。私はぜったいに黒崎くんを軽蔑なんてしないと。

 今、それを口に出すと勢いにまかせたみたいで言えなかったけれど、私の中にある黒崎くんへの気持ちも、尊敬の念も、何も変わることはなかった。


「暑いよな、校舎の中」


 決死の告白は、けれどはぐらかされてしまったのか、黒崎くんは少し離れた位置から地上へと目を遣って……


 ……征一さんに気付いたのだろう、微かに目を細めた。


「お客さんが来るからって、暖房強すぎるよね」
 

 わずかな変化は見なかったことにして前へと向き直った私からはもう、黒崎くんの表情は見えない。

 そろそろ戻らなきゃいけないかな。

 頭のすみでそんなことを考えながら爪先でフェンスを小突くと


「ヒトの感情を司っている器官は、こめかみの奥にあって」


 聞きなれた素っ気ない声が、真っ直ぐに響いた。

 唐突な言葉が何を示しているのか、黒崎くんの目が何を見ているのか。振り返らなくても、わかる。


「その部位を損傷すると、情操面に障害があらわれる。だから征一は喜びも悲しみも感じなくなって、欠けた感情を記憶で補うことにした。なんで誰もおかしいって思わないんだろうな。はりつけたみたいな笑顔ばっかり浮かべているのに」


 眼下の征一さんが女の子に何か話している。

 よくわからないけど、褒め言葉を言ったのだと思う。女の子は嬉しそうに頬をおさえている。