「………………ははは」



 ゾッとするような冷えた声が、濡れた空気を震わせた。

 どこか調子はずれな、狂気さえ感じられる短い笑い。うつむいていた黒崎くんがゆっくり顔を上げて、立ちつくす側になった私を見すえた。ひどくよどんだ、暗い目で。


「優しい? 強い? 何もわかってないんだな」


 地を這うような低い声で囁くと、黒崎くんはもう一度笑った。風にあおられた雨が顔を濡らしても、まるで気にならないようだった。

 頬を伝う、いくつもの水滴。

 はらはらと闇に消えていくそれは、雨よりももっと、あたたかなものに見えた。


「……全部嘘なんだ」


 泣きながら笑っているような、いびつで悲しい表情で、黒崎くんは重い口を開いた。



「お前が見てるもの全部、偽物だ。本当は全部――」



 全部、俺のせいなんだ。


 それは


 黒崎くんが何年もの間背負ってきた罪を語る最初の言葉だった。