「次の授業戻れそう?」

「ありがとう。大丈夫」

「じゃあ悪いんだけど、あたし先行くね。スライドの準備しなきゃいけないから」

「あ、雪乃日番だもんね。いってらっしゃい」


 申し訳なさそうに頭を下げる雪乃に手をふって、ゆっくりした動作で立ち上がる。

 よく眠ったせいか、さっきまで錆びたロボットみたいだった身体はすっかり軽くなっていた。

 ふとソファを見れば、きれいにたたまれた制服が置かれている。きっと雪乃が持ってきてくれたんだ。


(ありがとう、雪乃)


 心の中でもう一度お礼を言って、夏用の薄いスカートを手に取る。誰もいないし、ここで着替えちゃってもいいよね。


「……ウエスト、きつくなったような」


 始業式の時はぴったりだったスカートのホックが、だんだん窮屈になっている。

 これから薄着になるのにどうしよう。

 なんて一人ため息をつきながらファスナーを下げて、片足を通して。 

 でも、


「え……」


 なんとなく部屋のすみを見た私は、予想していなかった光景に目を見開いた。

 うっすらほこりをかぶった、プラスチック製の丸いゴミ箱。どの教室にもあるそれの中には使用済みの包帯が無造作に捨てられていた。


 ……背筋が寒くなるほど血が付いた包帯が。