(あの日もこんな雨だったな)


 頭に浮かぶのは、初めて黒崎くんと話した放課後。

 真っすぐに差し出された傘を戸惑いながら受けとった時には、こんな日がくるなんて想像もしていなかった。

 こんなにも誰かのことを考えるようになるなんて。


 保健室でのやり取り。
 二人で帰った夕暮れ。
 幸記くんとの出会いと、想像もしていなかった黒崎くんの秘密。


 この数ヶ月、本当に色々なことがあって、何度も悩んだり迷ったりしながら、私は変わっていったのだと思う。

 黒崎くんと出会って、人を好きになることを知った。勇気を出すことを知った。無口で優しいあの人に、たくさんのことを教えてもらった。


 黒崎くんはどうだろう。私と出会って、何か感じてくれただろうか。

 私の決意とは裏腹に、前以上に学校へ来なくなってしまった黒崎くん。今日だって、遅刻してきたと思ったらすぐに姿が見えなくなってしまって。でも私は、焦りそうになる自分に言いきかせた。


(大丈夫)


 大丈夫。

 絶対に話せる。


 黒崎くんとも、幸記くんとも。

 逃げようと思わなければ、必ずきっかけはおとずれる。 


 ゆっくり息を吸い込んで、私は猫の柄がプリントされたビニール傘を手に取った。くたびれたローファーをはいて一歩足を踏み出した。


 瞬間。