「……これ」


 体温のなじんだ布団。きっちり閉じられたカーテン。どちらも自分で整えた覚えのないものだ。


(一体、だれが……)


 もやのかかった記憶をたぐると、不意に大きな声が脳裏に閃いた。


『……っ!!、……原、おいっ』


 ……そうだ。

 気を失う瞬間、黒崎くんが私の名前を呼んで。大きな手が両肩をつかんで。

 じゃあ、布団をかけてくれたのも。


「雪乃、黒崎くんは?」

「は?黒崎?」

「うん、さっきまで保健室にいたんだけど」

「あたしが来た時にはいなかったよ」

「そっか……」

「どしたのよ桂、朝から黒崎黒崎って」


 あんな奴どうでもいいじゃん。

 あきれたようにそう言いながらカーテンを開く雪乃。その細い肩ごしに、からっぽになったベッドが見えた。


(……黒崎くん、教室にもどったのかな)


 思い出すのは、片手をおさえてうつむいていた横顔。

 話しかけるなって言われたけど。
 笑いかけても無視されたけど。

 でも、倒れた私をベッドに寝かせてくれて、布団までかけてくれた。

 そんな風に優しくされると


(やさしいけど不器用、なのかも)


 なんて、都合のいいことを考えてしまう。