「これ、使えよ」 その、無愛想な言葉と一緒に差し出された傘を見たとき、私は見開いた目をぱちぱちさせるだけだった。 みんなとっくに帰ってしまった夕暮れ時。 濡れて黒っぽくなった石畳と、絶え間なく地面を叩く糸のような雫。 図書室の整理を手伝っている内に天気が傾いて、一向に止まない雨にため息をついていた私。 そして声をかけてきたのは、同じクラスの斜めうしろの席。 「誰とも話さない黒崎秀二くん」