「どうしたいか、どうするべきかわかってて、背中を押してほしいのならあたしが押してあげるから頑張りなよ」 

「うん、ありがとう」

「それにしても……」


 言葉とともに吐き出された、大きなため息。


「……まさか、桂みたいなお子様が三角関係に悩む日がくるなんて」


 お姉さんは寂しいよ、と肩をすくめられて唐突に我に返る。


「だ、だから例えばの話!」

「今さらそんなこと言ってなんの意味が……」


 呆れを通りこした、小さい子を見るような慈愛の視線をそそぎながら黄緑のお箸を伸ばす雪乃。


「これ相談料ね」


 と、つまみあげたのは昨日作っただしがら昆布の煮しめで、相変わらず渋いチョイスだなあとおどろいてしまう。


「いつも思うけど、雪乃って見た目と味覚があってないよね」


 ガラスケースに飾られた人形みたいな派手で華やかな顔をしてるのに、好きな食べ物は煮物やお味噌汁。

 お祖母ちゃん子だったのが原因らしいけど、それにしても意外。


「見た目と違って中身は古風、っていうのもギャップがあっていいでしょ」

「たしかに印象的ではあるかも」

「それに、桂の作る煮物は美味しいし」


 とびっきり可愛い笑顔で昆布を口に運ぶ雪乃に、私はつられて笑いながらにぎっていた手をそっとほどいた。


 真っ直ぐな想いを受け止められるように。 

 両手でしっかり、抱きとめられるように。