「ま、断り下手な桂にはむずかしいかもしれないけど」

「ううん、言うよ、絶対に言う。自分が相手の立場だったら、きっとつらいから」


 中学時代の私は、何て言って告白を断ってたんだっけ。


 友達でいたい?
 そういう目で見られない?
 

 その言葉を選んだ時、私は相手のことをちゃんと考えていたんだろうか。好きだと言ってくれる人の想いに、心から耳を傾けていただろうか。


(きっと、真剣じゃなかった)


 それは、私自身が人を想うことをちゃんとわかっていなかったから。


 好きになること。
 その人のことばかり考えること。

 ささいなことで落ち込んだり喜んだり、次から次へと想いが生まれてくること。


 気になって、恋をして。
 初めて知った気持ち。


 黒崎くんを好きになってようやく、私は相手の立ち場に立って物事を考えられるようになった。


「私が相手の立場なら、たとえ駄目でも、無かったことにはされたくない。好きな人の気持ちを知りたい、だから」


 うまく言葉にならない気持ちをおずおずと口にする私に、雪乃が笑った。

 明るい笑顔だった。


「桂の中では、答えが出てるんでしょ?」


 自然に手を重ねる仕草は不思議なほど大人びていて、雪乃もこういうことをたくさん考えてきたのかなと頭のすみで思う。