……ひとの声が聞こえる。
 
 頭上からしきりに話しかけてくる声に、まぶたの裏が白く明けていく。

 誰が話しているんだろう?

 私、どこで何をしているんだろう?


「……」


 少しずつはっきりしていく五感に、私はぼんやりしたまま両目を開いた。


「桂、起きた?」


 最初に目に入ったのは雪乃の不安そうな顔。

 次に白い天井、まぶしい蛍光灯。数秒して、ここが保健室だと気付く。


「雪乃……私、寝てた?」

「そ。びっくりしたよー、ぜんぜん目覚まさないから死んでるのかと思った」

「……死んでるって……」


 縁起でもない、と思っても目覚めたばかりの唇はうまく動いてくれない。

 時計を見ようと視線を動かしたけど、壁際はちょうどカーテンの影になっていて。


「いま何時?」


 かすれた声でたずねると、返事の代わりに銀色の華奢な腕時計が差し出された。


「もうすぐ昼休み終わるとこ。起きられる?」

「うん、多分」


 差し伸べられた手につかまって、少しずつ身体を起こす……と、胸元までかけられていた水色のケットがずり落ちた。