そして消えゆく君の声

 要さんも感情を見せたことに気付いたのか、数秒の沈黙の後他人事だと言わんばかりの冷めた口調で続けた。


「秀二から聞いてるかもしれないけど、そもそもさ、うちは親父が筋金入りの根性論者なんだよね。劣っているのは努力が足りないから、正しく自分を磨いていないからってさ。そういう空気が家全体に蔓延してる」

「……」

「そうなると、人間は自分より弱いものを探して叩こうとするよね。劣っているものには理由があるんだから、気持ち良く制裁を下せる」

「…………そんな……」

「家を出た女が、どこの誰ともわからない男との間に産んだ子供。病弱で、学校にも行かず甘やかされているように見える。何の後ろ盾もなくて、捌け口にはもってこいだったってわけだ」


 要さんの口から語られる歪んだ世界。

 誰かが誰かを傷つけて、傷つけられた誰かがまた別の誰かを傷つける。


 救いのない循環。


 平穏に暮らしている私なんかには想像できるはずもない暗く行き場のない環境を思うと、その真ん中で佇んでいる幸記くんがたまらなく悲しく感じられた。