しどろもどろになる私にレンズの向こうの目が冷ややかに細められる。

 生徒手帳を開いて、手早く何か書き込んでいると思ったら開いたページを目の前に差し出してきた。


『いいからおとなしく付いてきなさい』


 右上がりの綺麗な字が、命令じみた言葉を告げる。

 無機的な印象さえ受ける冷めた表情を保ったまま、要さんはもう一度さらさらと銀色のペンを走らせた。


『言うこと聞かなきゃ蹴飛ばすよ』


 ……わざわざ書き足さなくても。


 長ーい足を見ながら、私はため息混じりにうなずいた。


 やっぱり、終業式後に交わした会話は幻じゃなかったんだ。

 別に白昼夢を見たなんて思っていないけれど、今の要さんと無地の手帳に並ぶ言葉を結びつけるのは難しくて、なんだか幽霊を見たような気分になる。


「要さ――」

「詳しい話は後だ」


 私の声をさえぎって大通りのほうへと向かう背中。迷いのない足取りは、もちろん、歩調を合わせてくれたりはしない。


 慌てて後を追いかけて
 通りを横切り
 角を曲がり
 階段を上がって
 今度は下りて。


 おそろしく複雑な道順をたどって最後に行きついたのは。


「……あれ?」


 要さんと初めて会話した場所の裏口だった。