そして消えゆく君の声

「親切だし優しいし、推してるほうも楽しいよねえ」

「けど、あんまり完璧だと逆に怖くならないのかな」


 そんな感想が出てしまうのは、頭の中に傷だらけの黒崎くんが浮かぶから。

 あんな風に笑う人が、弟の身体に消えない傷痕を残している。同じ家で暮らす男の子を学校にも行かせず閉じ込めている。


 どうしても結びつけることのできない事実は、得体の知れない恐怖になって胸の中でよどんでいた。


「完璧は完璧だけど、征一さんって少し変わって……ってか、天然なのかな。教室におっきい蜂が入ってきた時も気にせず授業うけてたとか、あと塩と砂糖まちがえたケーキとかでも全く表情変えずに食べてくれたらしいし」

「それって、味音痴で変な人ってことじゃ……」

「珍しくトゲのある言い方だね。桂って征一さん嫌いだっけ?」

「……嫌いっていうか、よくわかんない」


 そう。わからない。
 征一さんがどんな人で何を考えているのか。


 成績がいい。
 スポーツも得意。
 いつも優しく笑っている。

 それらは周りからの評価であって征一さんの人格じゃない。