――時々考えることがある。

 自分は何のために期待にこたえようとしているのだろう。それで誰が喜ぶのだろうと。

 言われた役割をこなしても、欲しいものは得られない。たとえば父の優しい言葉だとか、母の笑顔だとか、平凡で幸福な家庭だとか。

 何も手に入らないまま走るうちにどんどん足元が重くなって、深い沼にはまりこんでいくようだった。


 □□だけだ。

 □□がいなければ、今ごろ何もかも嫌になって投げ出していたかもしれない。僕を必要としてくれる小さな手、義務も立場も関係なく、ただそばにいたいと思わせてくれる大切な「□」。


 いつか別々の道へと歩き出す日が来るのだろうけど、その日までは苦しみから守りたい。隣で笑っていてほしい。


 □□の幸せが、自分の幸せだから。


 そんなことを考えながら、僕は短い手紙を書いた。贈り物に添えるために。

 下書きを元に清書して、やっぱりここはこうしようと書き直して。ようやく出来上がったものを読み返すと少し気恥ずかしくなったけど、まあいいかと封をした。


 正直な気持ちを語るのは恥ずかしいことなんかじゃない。