幸記くんがくれた花。

 黒崎くんもこの指輪に、昨晩の思い出を見出したんだ。

 それは大切な思い出を共有した証のようで、私は顔が赤いことも忘れて心から笑った。


「私もね、そう思ったの」


 振り返った黒崎くんの目は丸くて、ますます嬉しさが大きくなる。



「本当にありがとう。大切にするね」



 ひらりと手をふると、小さな光のしずくが乾いた石畳を走っていった。




 夏。

 そのまばゆく輝く季節を振りかえった時、私の心によみがえるのは風に波を打つ草木と、闇を舞う幾十ものホタル。にぎやかな縁日の通り。

 そして、駅前で別れた二人の逆光で塗りつぶされた顔。


 あの日の二人は何を思っていたのだろう。誰にも触れられない深い絶望に沈んで。そう遠くない未来への、悲しい覚悟を抱いて。


 どんな夜よりも深い闇の中で、けれど二人の目はとても優しかった。

 だから私は、今もずっと、ガラスの花びらを身につけている。


 あの日の思い出を包みこんで。
 虹色にゆらめく光に、決して消えないきらめく時を追想しながら。