「あ、俺つけてあげる」


 そっと手を離した幸記くんが、さっきとは逆の体勢で私の手を取る。

 一瞬触れた、メッキのつめたい感触。子供用にしては大きめの指輪は私の薬指にぴったりはまった。


「うん、よく似合ってる」

「そうかな?ありがとう」


 指に咲くガラスの花びらは木漏れ日を反射して、手を動かすと虹色が揺らめいた。


「……きれい」


 それが楽しくて何度も手をひらひらさせると、横に立つ黒崎くんが私にしか聞こえない程度の声で言った。


「似てるな、それ」

「似てるって、何に?」

「…………」


 焼けた地面、横並びの影の上を大きな蝉が横切っていく。そして。


 あの花に。


 沈黙の後、そう返した黒崎くんの顔は見えなかったけれど。ほんの少し覗いた輪郭の向こうに、優しい表情が想像できた。