何かの終わりはいつも寂しい。


 まだ触れられそうな楽しい出来事が引き潮のように過去へと変わっていって、やるせない気持ちでいっぱいになる。

 通り過ぎてしまえばきれいな思い出なのに、どうして去り際だけがこんなに切ないのだろう。



 九時過ぎにホテルを出た私たちは、時間ぴったりにやってきたバスに乗って街へと戻った。

 行きと同様、車内には誰も人がいなくて、どこか間延びした朝の空気に運転手さんの鼻声だけが響いている。

 私たちも、ほとんど無言だった。

 疲れていたというのもあるし、何とも言えない気まずさもあった。


 昨晩の出来事なんてなかったように、淡淡と外の風景を眺めている黒崎くん。

 時おり冗談を言いながら、私と目が合うと、小さく微笑む幸記くん。


 二人の態度は昨日の朝と何も変わっていないけど、ちょっとした仕草も表情も、カメラのレンズを変えたみたいに違って見えて、どう接すればいいのかわからなかった。



 バスを降りたころには、街はすっかり目覚めていた。

 遅めの朝ごはんを食べて、靴擦れを起こしたところに当たらなさそうなビーチサンダルを買って。

 そろそろ電車に乗らなきゃと周囲を見回すと、ふいに幸記くんに袖を引っぱられた。


「ねえ、桂さん」


 あれ何?

 と人さし指が示したのは、ビル群の陰からのぞく赤や黄色のビニール屋根。風にはためいて、魚の尾みたいに揺れている。あれは。