「桂さんはさ、本当にいい人だよね」
 

 おかしそうにくすくす笑う顔には年相応の幼さが滲んでいて、なんだかホッとする。

 大人びた表情もいいけれど、幸記くんはまだ十四歳なんだから。もっと自分を出して、わがままに振る舞ってほしい。

 それが許されない場所で生きていたんだって、わかっているけど。


 カツンと関節で鏡を小突いて、幸記くんが続けた。


「昨日からずっと言おうと思っていたことがあるんだけど、今言ってもいい?」

「ん? うん、どうぞ」


 私に? なんだろう。

 心当たりがなくてひょいと顔を寄せると、大きな目がギクリと見開かれる。


「あ、ごめん。近い?」

「いや、大丈夫。あのさ」


 横に逃げかけてまたもどってきた瞳に、決意に似た色が走る。その一瞬の光が消える前に、幸記くんは私の手を取った。

 か弱いと思っていた手は、私の手をつつみこめるほど大きかった。

 何か特別な儀式みたいに、そっと指に力をこめて。

 そして。



「俺、桂さんが好きなんだ。もちろん、そういう意味で」