赤い枠にかざられた鏡に、線のほそい横顔がうつっている。

 丸い目も小さな鼻もピンクの唇も、丁寧に作られた人形みたいに小作りで。


「ありがとう。いい思い出になったよ」


 伏し目がちに微笑んだ幸記くんの声はとても静かで、まるで最後の別れのようだった。


「そんな、大げさだって」


 だから私は、首を振って苦く笑った。幸記くんの言葉を笑い飛ばしたかった。


「いい思い出なんてこれからいくらでも作れるよ。秋の山は一面が赤や黄色に染まるし、冬には雪で木や地面がキラキラ光るの」


 なんの自由もなく、広い広いお屋敷で花を育てていた幸記くん。

 もっともっと、色んな場所を見てほしい。この世に数え切れないほど存在するきれいな風景を、一緒に見たい。


「また出かけよう、三人で。今度はちゃんとスニーカー履いてくるし」


 謝ってばっかりなのはいけないって言われたけど、これくらいなら冗談の範囲内だよね。


 幸記くんも、ちょっと笑ってくれたし。