木製の分厚いドアを開くと、中には先客がいた。


「あ」


 小さなガラスコップに水を注ごうとしていた幸記くん。私に気付いて手を止めると、コップの底と蛇口のぶつかる音が耳をこすった。


「おはよう。なにしてるの?」

「ううん、なんでもない」


 いかにも取りつくろった感じの笑顔を浮かべて洗面台に置いた袋を鞄にしまったけれど、一瞬見えたそれが病院でもらう薬袋であることは明らかで。 


「薬、だよね」


 思わず眉を寄せると、幸記くんは「違う違う」とでも言う風に手を振って細い肩をすくめた。


「薬と言えば薬だけど、ただの頭痛薬」

「頭痛薬?」

「うん。頭痛持ちみたいですぐ痛くなってさ」

「そうなんだ……」


 私も夜更かしすると頭が痛くなる体質だけど……朝から薬を飲まなきゃいけないほどよっぽどきついんだろうな。


「薬ばっかり飲んでると心配させるから、黙ってたんだけど」

「そっか……慣れない場所で泊まって疲れたのかも」

「うーん、たしかにソファの寝心地はよくなかったけど」


 あ、それって。


「ごめん、私が――」

「そこまで」


 昨日のことを謝ろうとした私を片手で制すと、幸記くんはしっかりものの委員長みたいに可愛く口をとがらせた。


「あんまり謝ってばっかりなのは良くないよ。こっちが気疲れするし」

「そ、そうだね」

「それにさ、俺楽しかったよ。ホタルを見たのはもちろんだけど、外泊なんて初めてだったし」