目が覚めた時、一番最初に目に入ったのは間接照明の埋め込まれた天井だった。

 次いでしわの寄ったシーツと大きな窓。
 ブラインドは一番上まで引き上げられていて、清廉な光が部屋を照らしている。


(朝だ……) 


 身体を起こして、私はガラスの向こうに広がる緑をながめた。

 白くかすむ山に、鳥の声。

 嵐のような夜が明けてやって来た朝はとてものどかで、まるで昨日のことが夢だったみたいに感じられる。


 けれど、抱きしめられた腕の強さも涙のあたたかさも、ちゃんと身体に残っていて。



(……黒崎くん、すこしでも楽になってくれたかな)



 昨晩の黒崎くんは最後まで一言もしゃべらず、ただ小さく身を震わせて、心の隙間から溢れ出すような微かな涙を滲ませた。

 いつも堅く閉ざされていて、決して開くことのなかった心の扉。

 その向こうには、身体と同じ……もしからしたら、外傷以上に赤くただれた傷が存在しているのかもしれない。


 たくさんの傷を抱えて独りで血を流していた黒崎くんが、初めて痛いのだと教えてくれた。ほんの僅かな時間でも、泣いてくれた。


(要さんの言う事情のことはわからないけど)


 痛みを我慢するよりは、思いきり泣くほうが気持ちが軽くなるはず。

 きっとそうとうなずきながらベッドから降りると、黒崎くんはまだ眠っていて。


 その穏やかな寝息に微笑みながら、私は洗面所へと向かった。