そして消えゆく君の声

「黒崎くん、ねえ、起きて」


 なんとかして目覚めてほしい。悪夢から解放されてほしい。願いをこめて少し強めに肩を揺すると。


「っ!?」


 ふいに、強く手を引かれた。

 おどろいた目で前を見れば、私同様おどろいた黒崎くんがこちらを見ていて。


「…………」


 どうやら無意識のまま手を引っぱったみたいで、黒い目は大きく見開かれている。

 わずかな照明に照らされる瞳は、寝ぼけているというより私を通りこしてどこか遠くを見ているみたいだった。

 目は覚めたのに、心はまだ悪夢の中にいるような。深い深い場所で、今も謝り続けているような。


「…………ひ、はら……」


 やがてしぼり出された声は、カラカラに乾いていた。


「……悪い……嫌な夢を…見て……」


 肩が
 指先が
 震えている。

 青ざめた顔は、今まで見たどの顔とも違う表情を浮かべていた。

 怒りでも悲しみでも恐怖でもない。ただただ真っ黒な絶望に塗りつぶされた目。


「……何でもない、何でもないんだ……だから……」


 腕をつかんでいた手から、力が抜けた。

 糸が切れたように黙ってうつむく黒崎くん。その姿に、私は要さんの言葉を思い出した。