暗闇にとけてしまいそうなひそやかな声は、けれど胸がつぶれそうなほど痛々しくかすれていた。

 聞いているこちらがつらくなるような悲痛な声。泣きたいのに泣けないような声をこれ以上聞きたくなくて、まだ痛む足をよろよろ動かすと。

 その主は。


「…………」


 ソファの背もたれに手をかけたまま、目を見張る。

 声の主は、背を丸めてうなされている黒崎くんだった。
 

「く…………」


 黒崎くん。

 そう名前を呼べなかったのは、そばで寝ている幸記くんが起きると思ったから……というのもあるけど。

 何より、黒崎くんの痩せた背中が苦痛に満ちていたから。

 よほど悪い夢を見ているんだろう。ひじかけに押しつけられた口元は、ひどく苦しげに同じ言葉をくり返していた。


「ご……、な……ぃ……」


 ごめんなさい。

 ごめんなさい。

 ごめんなさい。


 他の言葉を忘れたように、何度も何度も謝り続ける薄い唇。五本の指が、すがるようにクッションを握りしめているのが夜目にうっすら浮き上がっている。


「黒崎くん?」


 耐えきれず、私は耳元で呼びかけた。

 たとえ夢のなかでも、黒崎くんが苦しむ姿なんて見たくない。だから、小声で名前を呼びながら怯える子供みたいに震える肩にそっと触れた。