二階突きあたりの部屋は想像していたような恥ずかしい雰囲気じゃなくて、普通のホテルと言われれば信じてしまいそうなごくごく落ち着いた内装だった。 


(ショッキングピンクのライトとか、鏡みたいな壁とかなくて良かった…)


 ……部屋の広さに不釣り合いな、やたら大きいベッドが目につかないと言えば嘘になるけど。

 こっそり胸を撫でおろしながら机に荷物を置くと、不意に後ろから影がさして。


「日原」


 はっとして振り返ると、いつもの無表情にもどった黒崎くんが鞄を持って立っていた。


「なに? 黒崎くん」

「足」 

「え?」

「だから、足、見せろって」


 ぶっきらぼうな口調とともにベッドを示す長い指に、おとなしくなったはずの鼓動がまた逸り始める。
 

「あっ、だ、大丈夫! いや大丈夫ではないけど、自分で……」


 黒崎くんが怪我のことを言っているのはわかる。わかるけれど今の状況と場所を考えるとなんだかすごく恥ずかしいし、まだ汗も流していないし、抵抗感が……。


 思わずぶんぶんと首を振ったけど、私の考えなんてお見通しなんだろう。黒崎くんは呆れたように目を細めて、


「俺がやる方が早い、いいからそこ座れ」


 さっきとは打って変わった淡々とした仕草で、もう一度ベッドを指し示した。