「あいつ、日原と会うの楽しみにしてたから」


 横に立つ黒崎くんが、私の心を読んだみたいにポツリとつぶやく。

 人の目がないからだろう、ついさっきまで着ていたパーカーを脱いで傷痕だらけの腕をさらしていた。


「そうなんだ。嬉しいけどなんだか照れちゃうね」

「よくああいうことを口に出せるなとは思う」

「たしかに、黒崎くんが幸記くんみたいに話すは想像しにくいかも」

「気色悪い想像すんな」


 ぺシ、と頭をはたく手つきはいつもより気楽な感じで、学校では絶対こんなことしないよねと笑いそうになったけど、きっとますます叩かれるだけだからやめておいた。


「でも、幸記くんが元気そうで嬉しい」


 舗装されていない道を歩きながら、頭上の空を見上げる。

 薄く雲のはった空は落ち始めた夕日の色と混じり合って、ところどころ金色に輝いている。

 下にはゆるやかに稜線を描く山と、山肌をおおう豊かな緑。



 ああ、いい季節だなって心から思った。