自動的にたどりついた都合のいい結論に、私はさっき以上に大きく首を振った。

 ないない。黒崎くんに限って私の見た目を気にするなんてない。


 ましてや髪の長さなんてほとんどの男の子にとってはどうでもいいことだし、それに、黒崎くんは幸記くんと違ってほぼ毎日学校で私を見ていたわけだし、だから。だからっ。


 気持ちを必死におさえても、弾む心は止まらない。

 髪が伸びたことに気付いてもらえた。かもしれない。たったそれだけなのに自分でも驚くほど胸が高鳴って、お礼を言いたくなってしまう。

 こんな嬉しい気持ちにしてくれてありがとうって。 



 私は普通の高校生で、特別得意なことがあるわけでもなくて。要さんの言う通り黒崎くんの助けになんてなれないのかもしれない。

 それでも、無力だっていじけたり、泣いて逃げたりはしたくない。

 だって私には、黒崎くんが好きっていう気持ちがある。


 黒崎くんだけじゃない。幸記くんだって、大事な人。


 だから。

 魔法みたいなことは起こせないけど、心の傷を消すことはできないけど。


(せめて、今日という日を楽しくしたい)


 決意、なんて立派なものでなく。自分とのちいさな約束を胸に抱いて私は黒崎くんの背中を追いかけた。


 ガラスの天井から差し込む昼の光が、足元のタイルの上でやわらかくゆらめいていた。