「この飛行機は二人乗りだから、一緒に行こうよ。操縦は俺がするから大丈夫、きっと、上手に操縦するよ」


 嬉しそうな表情で語りかける男の子。きらきらと輝く大きな目と、日に焼けた二本の腕。


 幼い言葉。
 他愛ない夢物語。 

 なのに、どうしてだろう。


「あいつがいない日に、二人だけで出かけよう。ばれないように、ベッドに何か詰めておかないと」


 可愛らしい子供の夢が、
 なんでこんなに、悲しいんだろう。


「二人なら、ぜったいに楽しいよ。ずっと二人でもいい。だって、俺」


 耳元で、こっそりささやかれる声。

 桃色の唇が、大切な人に贈る言葉のかたちに動くと、もう一人の男の子が優しく微笑んだ。



「……そうだね。きっと、楽しいね」



 青空に、二人分の笑い声が溶ける。

 もたれるようにして寄りそう男の子を、お兄さんらしき男の子が、穏やかに見つめていた。




「…………」
 

 その、まるで宝物みたいな思い出が夢へと消えていった時、私は泣いていた。

 いつから泣いていたのか、何が悲しかったのか、わからないまま。
 だって、あんなに楽しそうだったのに。


 でも、今ならわかる。
 あの夢は、あの幸せな夢は、



 とても、悲しい夢だった。