お兄さん、というのは三年生の黒崎征一さんと黒崎要さん。

 二人は学園の王子様……なんていうと漫画みたいだけど、大袈裟でなく名前を知らない生徒なんていない有名人で、全女子の憧れの的で、話すことさえ畏れ多い正真正銘のスターだ。



 そもそも、黒崎くんの家自体が規格外らしい。

 私はそういう話に疎いから詳しくはわからないけど、大企業の経営者一族だとか、親戚には旧華族や大学病院の院長や政治家が大勢いるだとか、どこから入るのかすら分からないお屋敷に住んでるだとか、別世界みたいな話を何度も聞いた。

 そんな家に生まれた二人はおとぎ話の王子様のように完璧で、歩くだけで、振りかえるだけで、見えないライトが当たっているように人を惹きつける。 


 けれど末っ子の黒崎くんは違う。
 人付き合いが嫌いで、いつも影の中にいるみたいで。

 きっと本当の子じゃないんだ、なんてひどいことを言う人もいた。


「桂、黒崎になにかされたらすぐ言いなよ」

「なにもされないって」

「わかんないよ? 陰でストーカーとかしてそうな感じだし。今もどこかでこっそり見てるかも」

「見てないってば、もう」