「ハ、ハハハハハッハッハッ……不味い、おかしくて息ができない! まったくあなたねえ、冷静に考えて彼女のような御令嬢が望んで我々の世話をしに来るなど、あり得ないでしょう! いくら身内だからといって、少しは疑いなさいよ……! いやぁしかし、セシリー嬢お見事。あの切なそうな顔は実に……ッハ!」
「キース様のおかげですわ……。ああでも、リュアン様って可愛い御方! こうまで綺麗に冗談に引っかか――お付き合い下さるなんて。とっても純粋で、素敵な、素敵な……ぷふーっ、ひぃっひっひ」
「な、なんだなんだ、なんなんだお前ら! 俺は、俺は団長なんだぞ! ちくしょう……なんだよっ、お前らのような奴らのことは、もう絶対に信じてやるものかっ――!」

 胸が張り裂けんばかりに切なげな捨て台詞を残し、儚げに胸を押さえた騎士団長は、魔法騎士団本部の中へと走って消えた。しかしそれは笑いのツボを刺激しただけで、ふたりの腹筋をさらに激しい長期戦へと追い込んでゆく。

(あれ、キース副団長と、誰だ? 何してんだろ)
(さぁな……どうせまた団長弄りだろ? 団長大好きだからな、あの人……)

 その場でひぃひぃ(あえ)ぎながら立ち上がってはしゃがみ込むふたりの脇を、通りすがりの騎士団員たちは声を掛けるのをためらいつつ……なにが起こったのか、かなり正確に予想して肩をすくめ、通り過ぎていった。