冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~

 黒猫サニアは騎士たちをじっと見ていた。しばらくして、彼らの体からほんの小さな光の粒がひとつずつ漏れ出し、行き場を求めてどこかに飛んでゆく。

「ニャ……」

 サニアは、それを見て満足そうに頷くと、時計塔にいくつか開けられた各所の窓際に登り、眼下の町並を見つめる。

 今、彼女の目には、王都が光に包まれたように映っている。

 ――オーギュストは、支援物資を届けようという馬車の中で、妻サラの肖像画を見ながら、娘の無事を一心に祈っていた。
 ――ティシエルは、友の決意に報いようと徹夜で、王城の書庫に入り浸って封印を保つ術を求めた。
 ――メイアナは、若いふたりが、またこの喫茶店で楽しそうに踊って見せてくれること、切に願った。
 ――ロージーは、セシリーたちがきっと帰ってくることを疑わず、一生懸命自分の仕事をこなした。
 ――キースは、いくつも送られてくる魔導具からの通信を捌きつつ、リュアンたちの無事を信じていた。
 ――遠い国でもレミュールとマーシャが、大勢の元聖女候補たちと共に、奇跡を望んだ。
 ――ジェラルドも、大勢の国民を救うため、万が一国が失われた時人々の受け入れ先を得るため、各地を駆け回り、必死に頭を下げた。