「ハアアッ!」
「それでいいんですよ!」
(くっ!? こいつ……こんなに強かったか!?)

 ラケルはリュアンの斬撃をまとも受け止めることはせず逸らし、身軽に左右に回り込むと剣を振るう。リュアンの焦りもあるが、それ以上に訓練時とは違う本気の彼は厄介で……数年前に騎士学校に入るまでは剣を触ったことが無かったというのが信じられない。杖での魔法も付け焼刃とは思えないほどに展開が滑らかだ。

「今までの僕とは思わないで下さいよ! 『火竜よ、鋼を溶かす息吹でもって、全てを滅ぼせ』」

 唱えられたのは恐ろしい殲滅力を持つ『竜火』の魔法。こんなものを街の薬屋であるオーランド氏が扱えるわけがなく……彼が居なくなったタイミングなどを考えると、あのエイラが何らかの形で関わり、教えたものだと思われる。しかし例え親身になって指導したとしてもこんな魔法が一朝一夕で身に付くわけがない。

 ラケルが何かを心に期して、必死に努力を重ねてきたのは知っていた。だがそれだけでは到底不可能な成長だ。セシリーへの狂気にも近い思慕がそれを開花させ、常人では扱い切れない魔法の習得を可能にしたのか……。