「ここで皆が幸せに生きていて欲しい。悲劇なんて……誰も全部は失くせないけど、でもそれ以上の幸せがこの世界にあるって、私は信じてるから……! 痛みや辛さ、恐怖に負けないで、少しずつ誰かと誰かが繋がり合って広げていったこの世界を、私も守りたいんだ!」 

 こんな場所に似つかわしい晴れ晴れしい笑みを、セシリーは浮かべ、額を離す。

「……安心して。暗黒も、リズバーンももう解放する。彼らのせいで多くの人が苦められてしまって、許せない人もいるかも知れない。でも、もうずいぶん長い時が経ったから……誰かが、終わらせてあげないって思う。そうすればまた、いつかは誰かの居場所がここに作られるかもしれない……新しい一歩を踏み出せる人が、現れるかも知れないから」
(あ……れ……)
 
 そうして彼女が立ち上がろうとした時、エイラは強烈な眠気に襲われた。身体がぐらっとゆれ、セシリーの服の裾を掴もうとした手も、空を切る。

「私の……たったひとりの素敵なお姉ちゃん。元気でいてね……」
「セシリー……」

 弱々しくこちらに伸ばされた手が、地面に落ち……エイラが安らかな吐息を立て始めるとセシリーは、その寝顔をじっと見つめた後、暗黒の封じられた柱の元へ走って行った。