冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~

「仮に私を聖女の力で消し去ったとしても、もうこれ以上封印は保てない。暗黒の復活は止まらないわ。瘴気は広がり、人も大地も何もかもを飲み込んで、この場所のような静かな砂の世界に変えてしまう。戻って、あの王子様でも赤髪の坊やでもいい……せいぜい肩を寄せ合って残り僅かな時を楽しんだらいいじゃないの」
「……ううん。それをさせないために私は来たんだ」

 セシリーはポーチから、丁寧に布で包んだふたつの石を取り出す。片方はあの時森で女神様から預かったもの、もう一方は太陽の女神の眷属であるサニアという黒猫から託されたものだ。

「それは……?」
「この中には月の女神様と、太陽の女神様がいらっしゃるの。彼女たちが、たったひとつだけ方法を教えてくれたから、私が暗黒を元の世界に連れて行く」

 それを聞いたエイラの表情に、初めて焦りの色が浮かぶ。

「……させないわ。セシリー……私たちだけは、絶対に彼を裏切らない! 『闇よ……深き闇よ、我が血と混じり、集いて千の茨をで罪人を抱け!』 さあ、死の籠の中で永久の眠りにつきなさい!」