冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~

「ええ。元々はもっと人らしい姿をしていたのだけど……長い時が経つにつれて次第に変わってしまった。と言っても、一度も言葉すら返してくれたことなんてないのよ。触れても、苦痛の憎悪の感情が伝わって来るだけ」

 エイラは、その柱に愛おしそうに触れた。もしかしたら、セシリーに出会う前や、出会った後でも彼女はここを訪れたことがあったのかも知れない。

「あのお伽噺は……すべて、本当のことなの?」

 その姿を見て、セシリーは分からなくなってしまった。彼女たちがこうまでして暗黒を復活させようと思ったのは何故なのだろう。人々を苦しめたいだけなら、自分たちの欲望を叶えたいだけなら……もっと他に方法があったのではないか。彼女たちは、一体何を思って行動して……。

「――そこまでにしておきなさい。決して私は何も話さないし、それはもう明かされる必要のないこと。そんなことより、あなたもこれで納得できたかしら? こんなところまでやって来てしまってどうするつもりだったの?」

 彼女はセシリーのよく知るエイラの顔で、まるで違う誰かのように話す。