「人を疑うことをしない、素直で可哀想な御嬢様……。いえ、セシリー……私、あなたが幸せそうに笑うのが、嫌で仕方なかった。もう二度と会うこともないでしょう……それじゃあね」

 ふっと微笑むと彼女はその身を蝙蝠へと変え、開口部から飛び出して行く。しかし誰もそれを追う気力を持てなかった。たった今……封印の一端を担う宝珠が崩れ去り、もしかしたら今にも暗黒が復活を遂げるかも知れない……そんなおぞましい息遣いが、体の傍で感じ取れるような気がしていた。

「……なんとかしないと」

 まず動き出したのはフレアだった。彼女は頭に嵌めたティアラを外す。中心に隕石から取り出したという橙色の宝石が輝くそれを、太陽の石が乗せられていた台座に添えた。

 ほのかにそれは輝き、部屋に描かれていた魔法陣は明滅を繰り返しながら作動した。だが、それらの動きは錆びたようにぎこちなく……大きな不安を感じさせる。

「私が……いながらこの様とはッ!」
「レオリン様……起こってしまったことはもう仕方がありません」
「……そうだな、済まない。嘆く暇があれば、ガレイタムに連絡を送らねば……向こうでも異変は感じているだろうが」
「こうなった以上、いつリズバーン砂丘から魔物たちが湧出し始めるか……」
「わかっている、早急に兵の手配を――」