彼女は笑みをやや引きつらせ、さりげなく鞄を探りある物を取りだした。ラベンダー色の可愛い薬壺に入ったクライスベル商会謹製の軟膏を、彼女はリュアンの前に奥ゆかしく持ち上げてみせる。

「ええ、おかげさまで私はこのとおりですわ。でもリュアン様はそんなにもお顔を真っ赤に腫らされて……私のせいで大層辛い思いをされているのでは? こちら、当家で販売している効き目の高い薬ですので、もしよろしければたっぷりお使いくださいませ」

 悲しそうに微笑むセシリーに嫌なところを突かれ、リュアンの額にピシッと(しわ)が刻まれる。

「結構。騎士団員たるもの、日々自己鍛錬を怠ってはいかんのでな。自己治癒力の向上もそれにあたるのだ。これしきの物の数ではないさ……ははははは」

 言葉だけは丁寧に、そっと薬壺を返そうとするリュアンの手を、させるものかとセシリーは強引に押しやった。