なんにも答えられず、頭一つ分高い位置にあるリュアンの顔に、セシリーは黙って笑顔を向ける。いつの間にか、袖すれ合うほどの近い距離が自分の定位置になっており、少し肩を離す。

 セシリーは怖い。彼がではなく、自分の心に芽生えているこのどうしようもなく胸を締め付ける気持ちが。

「明日は舞踏会か。景気づけにあの喫茶店でも寄って行こう。証言してくれた店長への挨拶もまだだったし。ほら、手を出せ。人が多くてはぐれるかも知れないから」
「……はい」

 セシリーは自分の気持ちがこれ以上育たないように目を背け、リュアンが差し出してくれた手を握る。頭の上の輝く太陽を模した文字盤はもう、その時には丁度十二時を指そうとしていた。