セシリーはこの方の身分を知らないが、そのきっちりとした佇まいといい、おそらく幼い頃から貴族としての教育を受けてきたに違いない。額に金のティアラを嵌め、純白の正絹の端々を金糸で彩った高貴なドレスに身を包む彼女は、次期王妃としての貫禄をすでに備えつつある。

 彼女が自分に目配せして、にっこりと微笑んだのに会釈しつつ、セシリーは胸が少し痛んだ。情けないことにまだあの婚約破棄による心の傷は塞がっていないのだ。それでも思ったよりも平気なのは、隣にリュアンたちがいてくれるからなのだろう。

「ガレイタムで会って以来だな。ようこそいらっしゃった」
「あの時はお力を貸していただきありがとうございました。今回のこともご相談に乗っていただき恐縮です」

 一番に彼の差し出した手を握ったのはリュアンだ。肩肘を張る様子もないのは元王侯の品格が身に付いているゆえなのか。セシリーは、その余裕を少しは自分に分けて欲しく思う。

「いやいや、我が国の民を率先して守ってくれている君たちに助力は惜しむまいよ。実績も大きい魔法騎士団の団長を私怨で罷免し、団を解体に導くなど……とんでもない軽挙に他ならない。是非とも解決策を共に探って行こう」