「……意気地なし」
「……くそっ、これでいいか!?」
「はい。ちゃんと互いの顔を見て……ダンスは意思疎通が大事なんですからね。それじゃ行きますよ」
「こっちか?」
「ちが~う。それじゃ人とぶつかっちゃいます。ちゃんとした流れがあるんですから。それに周りも見ながら動かないと」
「顔と周りどっちを見るんだ……」
「どっちもです」
(あらあら、仲のいいこと……)

 それを遠巻きに見ていたメイアナは、目を白黒させながら必死になんとなく動きを合わせようとするリュアンがおかしくて、口元をにまにまさせつつ店内の片づけを進めている。

 すっかり夢中になったふたりの前でゆるやかにオルゴールは一周していった。調べを奏で終える頃には、すっかり周りは夕闇の帳に包まれている。

 セシリーはメイアナにお礼を言うと、リュアンと共に丸く光る月の下、どっちが下手だの悪いだのくだらない文句を付けながらクライスベル邸への道のりを歩みだす。それはいつか想像した通りに、彼女にとって何物にも代えがたいくらいの、とても喜ばしい時間だった……。