のそりと起き上がるリルルが了承したのをセシリーが伝えると、ティシエルはこわごわとリルルの背中を撫でる。「ふわふわだぁ……」と喜ぶティシエルに満更でもない表情をしながら彼はセシリーに尋ねた。

(なにかあったの?)
(実はリルルに頼みたいことがあって来たの。この手紙、特殊なインクが使われてて、匂いから差出人を辿れないかなって)
(ん~、やってもいいけど……あれ結構疲れるんだよね。一族に伝わる特殊な魔法なんだ)

 嗅覚を使うからさしずめ鼻魔法とでもいったところだろうか……雨を降らしたり大きくなったりとさすがに女神の眷属たる彼は中々に多才だ。渋るリルルに、気が急いていたセシリーは交換条件を差し出す。

(お願いっ……人の命が掛かってるの! 今度、大きいお肉焼いてくるから! あれ、お祭りの時の七面鳥みたいなでっかいやつ! 丸ごと!)
(丸ごと……! し、仕方ないなぁ……そこまで言われちゃ協力しないわけにはいかないよね!)

 調子のいい狼はすっくと背を伸ばすと、セシリーの差し出した手紙から匂いを嗅ぎだした。よくよく見れば高密度の魔力が鼻先へと集中され、ぼんやりと光っている。