表情からは今までの快活さは消え、代わりに帯びた凄味がセシリーを動けなくした。だが怯えが伝わったのか、悲しそうな顔でラケルはセシリーから体を離すと、先に気絶させた暴徒を縄で拘束した。

「……戻ろう。こいつに事情を聴かないといけないからね」
「う、うん」

 解放されたセシリーは、ごくっと唾を飲んだ後立ち上がって、男を担いで騎士団の方へと戻るラケルを追う。
 
(どうしたんだろあいつ。セシリー、大丈夫?)
(うん……行こっか)

 自分でリードを咥えて持ってきた賢いリルルを撫でて心を鎮めた後、セシリーは彼の隣に並んで、かける言葉を探した。でも心なしか、彼との距離が今までとはよほど遠くなってしまったように感じられて……口を開けては閉じるを何度繰り返しても、そこから真意を問いただせそうな言葉は生まれてこなかった。