役員室に人はいたものの、対応したのは支配人ルバートではなく、副支配人の地位に就いているチャドルという男だった。
 
「すまんな、家族のことで隣国で色々あったのだよ。しかし……まずいことになっているな。ルバートは?」
「ええ……それが」

 オーギュストと向かい合ったチャドルは、三十代の若さながら副支配人を任せるに足る実力の持ち主だ。普段から身なりに気を遣い小綺麗で流行を抑えた衣服を着こなす彼も、しかし今は見る影もない。髪の乱れや目の下の隈は、相当に憔悴し追い込まれている証拠だった。

「実はオーギュスト様が旅立たれてすぐ、総合販売所で同時にいくつか苦情騒ぎが起こりまして……販売した食品の中に虫、ごみがなどが見られたとか、壊れた不良品を売りつけられたといった、真偽を判断しにくいものだったのですが、それが毎日かなりの件数起こりました。次いで店外でも問題を告発する様な文書が貼りつけられたり、団体で抗議する人間が現われまして……急遽一旦販売所を閉鎖する騒ぎとなったのです」
「風評被害か……」