冴えない令嬢の救国譚~婚約破棄されたのちに、聖女の血を継いでいることが判明いたしました~

「言ってくれるじゃない……こんどあんたのお茶にだけ、砂糖じゃなくて塩ぶちこんどいてあげよっか?」
「おおっと、失言失言。どうどう……ど~う」
「あたしゃお馬さんじゃないんですけどねぇ」

 そんなふたりの息の合った微笑ましいやり取りに、改めてセシリーはこの場所に戻れたのだと実感する。ロージーを落ち着かせようと宥める合間にも、目敏いキースはセシリーにあった変化に気づいて、自分の瞳の中心を指で示しこちらを見た。

「そういえば、少し瞳の色が変わりましたね。綺麗な銀色だ」
「本当だ、見せて見せて」

 セシリーはロージーに顔を覗き込まれながら、その時のいきさつを掻い摘んで説明しようとした。だが、よくよく考えてみると話して納得してもらえることでもなく、とりあえずその場で魔法を実演してみる。

「キースさん、私魔法が使えるようになったんです! え~と《風よ、我が身を空へ運べ》!」

 以前ラケルに抱き上げてもらった時のように体を魔力で包むと、セシリーは足で大地を突き放し、ゆっくりと浮き上がる。そのまま彼女はゆっくりとエントランスの天井を一周してみせた。