眼下に町を収めたセシリーは、吹き付ける風に髪を押さえつつ王都の真ん中からやや北側の一軒の家屋を指さす。

「あのね、中央にある商区を少し奥に進んだ、あの青い屋根の屋敷なの。見える?」
「わかった、ちょっと揺れるけど、我慢してね!」
「ひゃう!」

 それを聞くなり、ラケルは彼女を抱えたままなだらかな角度で滑空する。見る見るうちに町の姿が大きくなり、屋根や街路樹に止まる鳥たちが驚いて、そこかしこへ散ってゆく。

(これが、魔法なんだ……)

 彼の身体に必死に腕を回しながら……その時のセシリーは別世界の入り口に立ったような気分で、弾む心を抑えきれずにいた。